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U50   第5回 山本 詩野さん

アンダー50として、2018年から2024年3月まで、
50才未満の若手市民活動家へインタビューを重ねてきました。
「活動を始めたきっかけや思い」など、
62名それぞれの軌跡が
多くの方々へのエールになるよう願っています。

山本 詩野 さんプロフィール

第5回 山本 詩野(やまもと しの)さん
溝の口減災ガールズ代表 高津区在住

活動のきっかけは

2011年、東日本大震災に見舞われたとき、被災された方への物資支援を通して石巻とご縁ができました。そのときに「何が今必要とされて、今できることなのか」と支援の仕方をつくづく考えさせられたのと同時に、被災された方々の悲しみを背負いながらも前に進む姿勢に驚きました。

 その後、2016年に熊本大地震が起こったときには、過去の経験を活かして、夫とともに地元の方々との連携プレーで、助け合いの輪を作りました。

 実際に熊本にも行き、ご近所炊き出しをしていた方との交流から、「食べ慣れた味が疲れた体と心を癒やした」という体験談を聞きました。そのとき4、5年前に私の中にインプットされていた、ローリングストックというキーワードが蘇りました。ローリングストックとは、缶詰や乾物など常備品を使いながら、なくなった分を補い、また備えて食材を循環させるという方法です。わざわざ防災用保存食を買わなくても、いざというときに日常の食生活がそのまま役立つといいですよね。

 その後、自宅マンションでの防災訓練の出し物を考える機会があり、「これだ!」と思い、ローリングストック料理ワークショップを始めました。

活動の変遷は

2016年6月に、第1回目のワークショップを開きました。「水浸けパスタ」というやり方のパスタと、それに合わせたソース作りという内容です。そのときにこだわったのが、いわゆる受け身の「料理教室」とは違う進め方です。参加者が自主的に考え、お互いの知恵を共有すればより有意義なものになると思ったので、まず参加者には、自宅にある缶詰や保存食を持参してもらいました。それをすべて一箇所に集めて、個々の家でどういうものがストックされているのかを皆で確認し、どんな品が使いやすく、またどんな偏りがあるかなどを見ることができました。

 次に、グループ別に、目の前にある常備品でパスタに合うソースを5分で考えてもらい、実際に調理して、完成後はお互いの味を試食。皆、和気藹々と取り組み、次々とアレンジするグループもいて、味が広がりました。例えば塩昆布やお茶漬けの素と和えれば和風、コーンポタージュの粉末なら洋風というような簡単パスタもありです。実に、盛り上がりましたよ(笑)。

皆が知恵を出し合った結果、もしも自分たちが被災したらという発想に立ち返り、子どもや高齢者がいる場合は固さや味の濃さの融通を利かせるなど、個々の状況によって違うという気づきもありましたし、食べ慣れた味は心を和ませるだろうということも実感しました。災害と食に関しての意識が実に身近になった感じでした。

 その後、依頼されてワークショップを開くという機会も多くなりました。川崎市内の各区の防災イベントはもちろん、コミュニティ形成のイベントでもオファーを頂いています。

 ここ、溝の口駅コンコースで高津区が主宰した防災イベントでは、ダンボールのジオラマキットを活用して地元の地形や行動ポイントを可視化する「防災ジオラマ」と一緒に、熊本で教わった「即席味噌汁」をご紹介して、大盛況でした。

東北と熊本から多くのことを学ばせていただき、私たちの今の活動があります。

 2018年4月には、学び取ったことを是非伝え残したいと、プロジェクト仲間と一緒にクラウドファンディングを通して本を出版することができました。タイトルは「おいしいミニ炊き出しレシピブック」です。たくさんの方々の応援と色々な人たちの協力のもと、自信作の本が出来上がりました。

イベントで学んだことは

私自身、「自分ごととして捉えて実践すると頭に入ってくる」ということと、「常に新しい知恵を共有できる場が大事」ということですね。そして、こういうイベントで、小中学生に少しでも調理の簡単ノウハウが伝われば、親が何かのアクシデントで帰宅困難になった時に実践できますし、親も「うちの子はやれるだろう」と少し心配が減りますよね。

 また、この活動をする以前は、毎年秋の防災週間が近づくと、自宅の防災グッズや保存食の準備は大丈夫かと心がワサワサしていましたが、今は過度な不安が無くなりましたね。自宅にある常備品でまかなえるのですから。無駄な物は買わないという心構えもできました。

団体名の由来は

2016年2月、自宅マンションを含む近隣マンション3棟で合同イベントを行ったときに、子育て仲間で芋煮をやりました。実は、そのときに「芋煮ガールズ」と名付けたのが発端です。その後、「しなやかに災害に向き合い乗り越える」をモットーに活動している、「一般社団法人 減災ラボ」の代表・鈴木光さんとご縁ができ、彼女の「被害を出さないことを目指す防災ではなく、災害の被害を減らす減災」という発想に共感しました。

 自分たちが住む溝の口を拠点に減災活動を広げ、各地域でご当地減災ガールズが誕生することを願って、「溝の口」と「減災」のフレーズを合わせ「溝の口減災ガールズ」になりました。

 メンバー10人の中では私が一番年上で、あとは30歳代、40歳代のママたちですから、最初は「ガールズ」には拒否反応があったりして(笑)。でも、キャッチとして受け入れて貰いやすいし、「え?どこにガールズ?」という笑いがあってよいのではと私の一押しで、そのまま「ガールズ」で通しています。私は「生涯、ガールズ」という気持ちなんですけどね、笑。

メンバーの想いは

「日常に役立つことが大切」、「学んだことを伝えたい」という想いは減災ガールズ皆同じです。

 母として妻として女性として、日常生活の目線で、特に家庭内で災害時にどんなことが実際に必要かと見極め、発信していこうと思っています。地域によっても立地状況などが違うわけですから、本当にご当地減災ガールズが必要だと思いますね。

 メンバーの中には、収納整理学に詳しい人もいるので、今後は地震時に家具の圧死から身を守る収納のあり方を深めたり、被災時のトイレ事情は心配の種なので、防災トイレ比較実験をしたり、どんどんやりたいことが増えていきます。

 実はこのメンバーは、地元川崎野菜の販売や野菜料理集を作っている「マルシェガールズ」とも重なっていて、ガールズ三昧(笑)。もちろん、料理上手な人ばかりがいるわけではなく(笑)、でも、それで良いのです。衣食住、防災…暮らしの中で、それぞれが興味あることを共有していく感じで、自分の知らない分野の刺激を分かち合っていますから。

 不思議なことに、この活動をしてきた2年間で、楽しかったことは思い出せても、困ったことが思い出せないんですよ(笑)。やはり、「無理をしないで、できる人がやれるときに、責任を持って携わる」というゆるいスタンスが良くて、困る前にメンバーそれぞれが助け合って自然と解決してしまっているのですね、きっと。

今までに印象深かったことは

2017年の高津区防災訓練終了後、町会長が挨拶され、「時代が変わるにつれて、防災訓練も変化が必要ということを実感した。『一緒に楽しく学ぶ』というやり方に防災の意義を感じた」と、私たちの活動をご覧になっておっしゃってくださいました。嬉しかったですね。

 また、テレビでも取り上げていただき、リポーターが番組の締めで、「楽しく続けていることが、町の顔になっていますね」と話していて、「それだ!」と再確認しました。

 防災へのハードルを下げるために、楽しく学びながら災害時の実践力を身につけることが理解されて、本当にこの活動をやっていて良かったと思いましたね。

今、振り返って思うこと

私の活動の原点は「子育てや仲間、心が豊かになることのどれかがあること」なんだなあと改めて思いました。同じ興味をもっている人たちと過ごせるのは本当に幸せです。人見知りの性格が大きく変わりました(笑)。

 私は、ギャラリーという仕事に携わっていますが、生活はすべてアートに繋がっていると思っています。私が考えるアートは難しいものではなく、心を豊かにするものを指しています。それは日常を楽しむことでもあります。減災ガールズやマルシェガールズの活動も同じです。そして、誰かに役立つことを発見して、それを発信する喜びも大きいです。

最後にメッセージを

仲間とともに、減災ガールズの活動を広く溝の口からどんどん発信していきます。「減災」、「衣食住」、「ローリングストック」、「地域」などに興味のある方々、簡単で美味しいという感覚を、私たちと一緒に味わってみませんか。自称ガールズ、ウェルカムです!

お問い合わせ

問い合わせ〉
溝の口減災ガールズ代表 山本詩野 shino@wa2.jp

次回のエースは伊早坂遙さんです。

伊早坂遙さんへ一言

すごい活躍ぶりなのに、黒子に徹している姿が美しい「シチューさん」こと、伊早坂遙さんにバトンをつなぎます。
 子どもから大人までワクワクした夢見ヶ崎動物園での「夢見る星空キャンプ」や、防災も取り込んだ「交番の日制定記念日イベント」、どんな企画も参加者が楽しくなる、そのプロデュース力と行動の速さには本当に尊敬のまなざしです。  これからもシチューさんが何を繰り広げるか、その行動力から目が離せません。

平成30年6月6日取材 レポーター 町田香子

バトンを受け継いで 山本 詩野 さんへ一言

川崎で活躍されている方々の中で、「憧れ」の眼差しで見つめてしまう存在が何人かいます。詩野さんはその筆頭。柔らかな語り口、ぴんと伸びた背筋、確かな審美眼を感じる服装や小物。そして何より、“他人”に優しいその視点。言葉の端にそれを感じるのでした。(山本さんご夫妻おふたりとも)。
 家族や恋人、友人には優しく出来るものです。名前も知らない目の前の他人にこそ、優しく・・・、そうありたいと思っています。
 バトンを繋いでいただき、「黒子に徹している」とのお言葉をいただきました。これまでは表に立たない、誰かを立てることを考えていましたが、それではいけないと、ここ一年くらいは名前や顔を出すように意識を改めました。従って、今回もインタビューをお受けした次第です。

(C) 2022 公益財団法人かわさき市民活動センター 
市民活動推進事業