U50 第50回 吉沢春陽さん
アンダー50として、2018年から2024年3月まで、
50才未満の若手市民活動家へインタビューを重ねてきました。
「活動を始めたきっかけや思い」など、
62名それぞれの軌跡が
多くの方々へのエールになるよう願っています。
吉沢春陽 さんプロフィール
かわさき芽吹塾代表
横浜市在住
かわさき芽吹塾(川崎市高津区)は、大学生を中心としたボランティア講師が授業を行う無料塾。2021年5月に開校し、様々な理由で有料の塾に通えない中・高校生たちの学習支援と居場所づくりの活動をしています。代表の現役の大学生、吉沢春陽さんに生徒たちへの想いや、自身のこれからについてうかがいました。
無料塾を始めたきっかけ
かわさき市民活動センター並木(以下、並木):かわさき芽吹塾(以下芽吹塾)を始められた頃、センターに広報の相談を頂いたことが吉沢さんとの出会でした。吉沢さんが活動を始められたきっかけを教えてください。
吉沢さん:いくつかあります。1つは、高校時代にアフリカの貧困問題のドキュメンタリーを観て、自分がどれだけ恵まれているのかをすごく感じたことです。高校時代は何もせずに過ごしましたが、大学生になっても、コロナの影響で授業はオンライン、サークル活動もできない状況で、自分が何も出来てないのがすごく嫌で。何かしていないと、という焦りがありました。子どもの約7人に1人が貧困状態にあるのを知り、これだ!と思って。
塾で講師のアルバイトをしていたので、その経験を活かせないかと、学習支援や居場所支援を考えました。大学生になってボランティアをすることは決めていたものの、実際に何をやるかは決めていなかったので、きっかけになりました。
もう1つは、自分自身のためという理由です。コロナ禍でサークルや新しいコミュニティがない状況で新しい人との出会いがなく、自分はそれが大切だなぁと思っていたので、ないならば自分が新しいコミュニティを作ってしまえば、輪が広がるのかなと。
並木:開塾にあたり「八王子つばめ塾」(八王子市)まで見学にいらしたとのことですが、ここはどのようにご存知になったのですか。ボランティア講師と生徒は何人位でスタートされたのでしょう?
吉沢さん:「無料塾」でネット検索をしたとき最初に出てきて、HPを拝見したところ「無料塾を立ち上げたい方へ」とあったので、これは是非ともお話を伺いに行かないと!と思って。
スタート時のボランティア講師は2~3人くらいです。自分と副代表ともう1人ですが、主に2人で教えていました。生徒はもちろんゼロで、2~3週間して1人、半年後に市民発の取材をしていただい頃が4~5人でした。その後、様々なメディアに取材していただき、露出が増えるにしたがって生徒も増えていきました。
芽吹塾の運営と活動の目標
並木:現在はどのように運営されているのですか?
吉沢:毎週土曜日午後5時50分から同8時40分まで通常の授業をして、テスト前はテスト対策として、土曜の午後と夜間もやっています。無料塾の欠点は有料塾と違って常に使える自習室がないので、オンラインで繋がり画面をつけてみんなで勉強するという、オンライン自習室をやっています。今年度から、オンラインをうまく活用しようということで、受験生の社会の授業なども週1回程度やっています。
並木:内容もこの1年で広がりましたね。スタート時からこの1年3カ月くらいの間に吉沢さんが当初実現したいと思っていたことや目標にしてきたことが、達成できている感じですか?
吉沢:自分が最初に立てた目標は割と達成できているかな、と思います。大きい目標としては教育格差を無くすということだったのですが、その中で中目標を立てました。
まずは、1年目で生徒20人以上を支援して、ボランティア講師を30人以上集めるというものでした。
ボランティア講師の大学生たちのコミュニティの場
並木:1年で目標が達成できていますね!ボランティア講師の方々はどんな風に集まって来るのですか?
吉沢:目標は立てたものの正直こんなに大きくなると考えてなくて。最初は友達つながりとか同じ高校の人に呼びかけをして、身内というか知り合いの中から増えていったのですが、最近ではHPで調べてきて「ボランティアをやりたい」ときてくれたりします。あとは、大学のボランティアセンターにお願いをしています。
並木:講師として参加されている大学生のみなさんのご意見はいかがですか?
吉沢:何よりも楽しいといってくれています。大学生にとってはサークルみたいな感じで、講師同士が楽しく話せたり新しい出会いがあったりとか、とても感謝されています。
コロナでサークルに入れなかったという人も多く、自分が立ち上げた理由の1つでもある新しいコミュティという場で、自分と同じように悩んでいる人の役に立てばとも思います。
並木:センターの会議室で講師希望者の説明会を開催されたとき、沢山の若い人たちがいらして「全員講師希望者です」と伺って、すごいなぁと。これだけの人が無償で子ども達の学習支援をしたいと思ってくださっている、世の中捨てたものではないと、胸が熱くなり、とても感動しました。生徒は中学生がメインですか?
吉沢:僕も感動しました。本当にありがたい限りで、来ていただけなければ今の活動はないので。生徒は7~8割位が中学生で、残りが高校生です。今、中3が一番多くて12人です。
高校合格の喜びと芽吹塾のこれから
吉沢:昨年は中学3年生が3人いましたが全員が公立高校に合格してくれました。本当に嬉しかったです。
並木:すばらしい(拍手)合格は本当にうれしいですよね。受験が近くなると対策などにも力を入れたり、専任の先生をつけたりするのですか?生徒たちは高津区近隣の人が多いのかしら?
吉沢:対策は今からもうやっています。特に専任の講師はつけず、講師が45人いるうち運営のメンバー7~8人くらいで受験対策の研究をして、それを他の講師に回すという感じです。生徒は川崎市全域からきています。遠い場所だと川崎区からもやってきます。やはり溝ノ口は交通の便がいいのが大きいです。川崎駅からも1本でこられますしね。
並木:今後の活動の展望などあると思いますが、吉沢さんは現在大学3年生と聞いていますし、皆さん大学生でしょう?良い感じで広がってきた活動をどう継続していかれるのでしょう?社会人になっても継続する意向はありますか?
吉沢さん:運営メンバーに必ず各学年を入れるようにして、今の形を引き継いでもらえるような状態を作っていますが、どうしても3年生が多いので、1・2年生のボランティア講師を増やすことに力を入れています。活動を引き継いでいってもらえる良い連鎖を作っていきたいと思っています。もちろん、自分に余裕があれば社会人になってもやりますが、今はまだ全くわからないので明言はできなくて。あとはボランティア講師が集まらないのに生徒がいるような状態だったら、自分が必ずやるというのは決めています。
並木:生徒から進路やプライベートな相談をされることはありますか?
吉沢:進路相談は結構ありますので力を入れています。今って塾ありきになってしまっていて、学校でも「塾ではなんて言われている?」「塾でやっているでしょ」という感じで進められるらしいので、そうじゃない子は情報をどこで手に入れるの?と思います。将来の相談もたまにあります。居場所としてもかなり役割を果たしているとは思います。
将来への想いと生涯のテーマ
並木:吉沢さんご自身の将来はいかがですか?
吉沢:僕はこれといったものは全く決まっていないのですが、やりたいことはいっぱいあります。まずは普通に就職をして、5年くらいたったら起業をしてみたいなと思いますし、50代くらいになったら海外でボランティアをしてみたいです。もともとアフリカの貧困問題について関心があるので。30代は学びで自分の力をつけたいので、まずは日本国内のボランティアに力を入れてから、いつかアフリカに行ってみたいです。
並木:貧困に関する課題の支援は吉沢さんにとって生涯のテーマというか、つなげていきたいことの1つですね。吉沢さんみたいな人が社会人になったら、良い社会になりそうです。
吉沢:そうですね、それはずっと思い続けたいです。もっとこの問題について知ってもらわないと、と思っています。特に日本の貧困は目に見えないので。子どもたちも見た目ではわからないので、まず信頼関係を作り話せるようになってから初めてわかったりします。
支援したい相手に想いが届いているという実感はありますが、まだまだだな、とは思いますけれども。
(取材担当:並木 取材日:2022年7月5日)