U50 第10回 真鍋 靖子さん
アンダー50として、2018年から2024年3月まで、
50才未満の若手市民活動家へインタビューを重ねてきました。
「活動を始めたきっかけや思い」など、
62名それぞれの軌跡が
多くの方々へのエールになるよう願っています。
真鍋 靖子 さんプロフィール
こすぎトラベラーズサロン&親子旅育推進部 代表
川崎市中原区 在住
こすぎトラベラーズサロンとは
「旅=心が少しでも動いた瞬間から始まる非日常体験」と捉え、旅のもつチカラ=「旅育(たびいく)」の促進と、安心して旅について語れるコミュニティの構築を目指して、2014年6月武蔵小杉にて発足しました。
大人も子どもも「旅」は人を成長させるという信念からこの会は生まれています。特徴は大人と子どもの両方を対象としていること。ワークショップやトーク会でも大人と子どもは対等な立場、でも弱いところは相互助けあいながら時間や体験を共有します。
運営においては、次の3つの事柄を意識してイベントを組み立てています。
一つ目は、既に旅の醍醐味を知っている人が、その旅を自分の人生にどう反映させていくかにスポットをあてた部門。「人の旅を笑うな!」は最低守ってほしい合言葉です。旅の経験値は関係無し、旅人は皆平等をモットーに世代を超えて旅をkeyとした情報交換を行っています。
二つ目は、親子旅に出たいけれど、きっかけや勇気が持てない方を対象にした部門。こちらはサロンの中に「親子教育推進部」として別枠で取り組んでいます。この推進部長は、このリレーインタビュー・3回目のワーキングマザーの会「Mothers Be Ambitious」の高橋麻美さんです。彼女のネットワークの広さと広報力にはずいぶんと助けられています。
三つ目は、旅に出ることが難しい方にも旅育を届けたい。何らかの理由で旅に出ることが難しい人や、そもそも旅がキライな方にも響く方法で旅育を体感していただけたらと意識しています。それが伸びやかに自分らしく過ごすきっかけとなれるのであれば、こんなに幸せなことはないと思います。
その親子旅育推進部とは
「親が楽しければ子どもはもっと楽しい!」をモットーに、子連れ旅の魅力・旅がもつチカラを親子で実感できるプログラムを提供しています。様々な分野の特技を持つ方や、世界を体験してきた方々を講師にお話を聞いた後に、実際に頭と手を動かしてモノを創造し、最後に自分の言葉で発表するまでが基本的な流れとなっています。
親子旅の普及を考えたのは、自分が子を持つ親になったことが大きいですね。少し前までは、親子旅は非難の的、実際辛らつなことも言われたりもしました。そのときに、もっと親子旅が当たり前のものとなったら気軽に出かけられるのではないかと思い、そのためには親子旅人口を増やす何かをしなければと考え始めました。
実物を五感で自分に組み込むことや人との出会いは、代えがたい旅の思い出となります。そして旅に出ると誰しも異邦人の立場になりますが、文化の違いや差別も受け入れざるをえない状況が自分を育ててくれます。
子連れ旅成功の秘訣は「親が楽しむ姿を子供に見せる」ことです。小学校3年生頃までは親が行きたい所へ行きましょう。子供はどんな所でも楽しみを自分の力で見つけます。作られたおもちゃのない世界。旅はそれを手に入れるための、ひとつの手段でもあります。旅先でのトラブルもありのままに見せて、一緒に悩んで体験させてください。将来のその子の人生にその体験は生かされるでしょう。私は「旅とは不便を取りに行くもの」と思っています。旅は、生き抜く力になります。
どんな活動を
旅をテーマとしたミニプレゼン会や情報交換会、旅を題材に展開させたワークショップを開いています。また旅に出ることが難しい人々に、身近な場所で旅から得られる学びの醍醐味を感じて頂く事を目指して、Webにて旅育に繋がる情報を発信しています。
4年間でワークショップやトーク会を37回、親子旅育推進部のイベント5回、他コミュニティとの共催企画も多数開催してきました。また、旅育やコミュニティ運営についての講演する機会も7回ほどいただいています。この活動で本当に私は周りの方々に支えられてここまで来たと思っています。
具体的にはどんなイベントが
最近は妄想旅行大会に興味を持っていただくことが多いです。妄想を膨らませながら自分で旅を計画して、紙にその妄想を描いた後に5分程説明をしていただきます。また、「旅リオバトル」と言って、旅に関する本を持ち寄り5分でその本の魅力を話してチャンプ本を決める、子どもから大人まで楽しめる書評合戦を開いています。日本の山岳地図やロンドンの地下鉄地図など、地図で戦う「地図リオバトル」も開きました。
また、旅と音楽で世界を旅しつつ学ぶ「こすぎdeオト旅」では、琵琶やネパールの楽器「サーランギー」の演奏家を招き、演奏と共にその楽器の国についてのレクチャーを受けました。その後参加者がその楽器と合奏したり、楽器に触るという貴重な体験もさせていただきました。
最近特に印象に残ったイベントは
2018年10月20日に川崎臨港病院さまと共に開催した、中島中盛会での親子妄想旅行大会です。(前回の中村崇さんへのリレーインタビューでも取り上げていただいていました)武蔵小杉を離れて初めての開催場所でしたので不安もありましたが、お母さまがたの熱い反応がありがたかったです。妄想の旅は何でもありですから、子どもに負けないくらい大人が描く旅の絵も十人十色!画面の上には、毎日頑張ってるお母さんだからこそ描けた、自由の旅を具現化した姿がありました。
それを見た子どもたちは「なんで、お母さんの旅にボクがいないんだよー!」なんて大騒ぎ(笑)。親も子も誰にも遠慮せずに描いて、嬉しそうに本音で対話をしている姿に胸が打たれました。描いた旅をすぐに実現することは難しくても、長い人生の中でその絵が旅に出るきっかけになる瞬間が来ると信じています。
旅との出会いは
自由に旅する面白さを知ったのは高校2年のときの修学旅行でしょうか。1年生の時点で準備開始。行き先を3箇所選定するところから修学旅行はスタートしました。宿と新幹線以外は全て生徒が自主的に組み立てます。東北、四国、九州と決まった中から私は四国を選び、小豆島へ渡ったり、讃岐うどんづくりを体験したりしました。計画通りに行かないことも多く、楽しい思い出ばかりではなかったのですが、この経験は大きかったですね。旅の行程を練ることの面白さを知りました。
本格的に旅に目覚めたのは大学時代です。専攻は建築。学びの中で実際の建築物を目にしたくなり、旅に出る機会が増えました。その過程で、旅自体の魅力にとらわれてしまったのかもしれません。私にとって旅とは、自分事を増やすことです。
どんな子ども時代を
一人で色々なことを空想したり、手を動かして何かを作ることが大好きでした。今の妄想旅行の礎かもしれません。どちらかというとおとなしく、自分の世界に没頭するとまわりは見えなくなるタイプでした。
大学時代は建築の課題提出と、設計会社でのアルバイトだけで精一杯。華やかな生活とは無縁でした。卒業後は住宅メーカーで6年間働き、その後さらに専門的に学ぶため室内施工専門校へ通い、作業服に安全靴が制服の世界で施工の実技に明け暮れていました。当時女性では珍しかった電気工事士の資格も持っていたりします。
活動を振り返って
活動を始めた理由の一つは出産して見えてくる世界に変化があったこともあります。私は横浜生まれの3代目ハマっ子。横浜大好き人間ですが、私の娘にとってはこの川崎がふるさとになります。子どもがふるさとを誇れる街づくりのために「ポッポッポの街づくり」を提唱してみました。それは、ハードルを下げたコミュニティー作りです。ですが、私にとってコミュニティは副産物。あくまでメインは「旅が持つチカラを考え、伝えること」です。
ただ活動する中で、誰かの心に「ポッ」と小さな明かりを灯すお手伝いが微力でもできればとは意識しています。ろうそく同士って無理やり火を渡そうとしなくても、近づけるだけで丁度いい瞬間にポッと火が点くでしょう。私は種火になるだけ。「旅」をフックに参加者に好奇心・楽しみ・満足感・充実感・自分にも出来るかも、などの「ポッ」を無理なく渡したい。心に「ポッ」が生まれれば、犯罪に走ろうとか意地悪してやろうとか足を引っ張ろうとかダークサイドに向かうベクトルを引き戻せる気がするんです。そうしたら治安も良くなるし、未来に希望が持てる街になるかなぁと。それが私の街づくり。なので、今まで通り気負わず「ポッポッポッ」を広げていこうと思います。
これからの課題
発足当時は定期的に月2回イベントを開いておりましたが、ある日ふと気が付きました。これでは旅に出られないと。それからはもっとフレキシブルに、無理のない範囲で活動することにしています。
また、「旅は人を成長させる」と信じて活動しておりますが、実際旅に出るにはある程度まとまった時間もお金も必要。この格差社会で旅に出られる家庭ばかりではないことは知っています。そういう子ども達は「旅育」の恩恵を受けることができないのか?時間やお金が潤沢でも他の条件で旅に出られない人はどうすれば?
サロンを始めた当初から悩んでいたこの問題ですが、妄想旅行が解決の糸口になるのではないかと最近気が付きました。心がうごいた瞬間から旅。そして、それを温めることで10年後20年後の旅に繋げる。希望と絶望は紙一重ですが、私は旅と妄想の持つ力を信じて旅育を推進していきたいです。
最後にメッセージを
もし、何か活動したいなと迷っている人がいたら、人に打ち明けてください。人に言うことは、自分に少しのプレッシャーをかけることになります。私の活動も武蔵小杉の市民大学「こすぎの大学」にて、軽く構想を口にしたことがきっかけで今に至りました。U50で紹介された方の中で、自分のマインドに合いそうな方にコンタクトしてみるのも一つの方法だと思います。「ポッポッポの街づくり」をぜひご一緒に。
こどものヘルスリテラシーの向上をねらいとした「こすぎこども大学」を主催されている、かわさき医療情報ネットワークの荒木さんにバトンを繋ぎます。病院図書館司書としてもご活躍で、その情報の質と量は圧倒的。彼女の豊富な人脈と経験から生み出される講座はこどもにも理解しやすい上、大人の私から見てもとても質が高く、参加する度に親子で惚れ惚れしています。旅と医療と本をテーマに共創できる日が来ますように!
平成30年12月3日取材 レポーター 町田香子