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U50   第11回 荒木 亜紀子さん

アンダー50として、2018年から2024年3月まで、
50才未満の若手市民活動家へインタビューを重ねてきました。
「活動を始めたきっかけや思い」など、
62名それぞれの軌跡が
多くの方々へのエールになるよう願っています。

荒木 亜紀子 さんプロフィール

かわさき医療情報ネットワーク 代表
川崎市中原区 在住 

かわさき医療情報ネットワークとは?

 「老いても病気になっても安心して暮らせるまちづくり」を実現することを目標とした市民団体です。この団体を立ち上げたきっかけは、私が市内の病院で医師や看護師専用の医学図書室に17年ほど勤務し、がん患者の話を聞く「がんサロン」を、5年前から担当していたことが原点です。

 人は病気になってから初めて自分の健康状態を見つめ直すことになり、ショックを受けることが多々あります。そして高齢者になればなるほど柔軟な考え方ができずに悩みます。もし、若いうちから、そして病気にかからないうちから自分のからだやこころのことを自分ごととして考えられたら、どんなに暮らしやすい人生を送れるかと考えたのです。それには、「小さなときから親子で身体や心のことを一緒に学習し、育むきっかけが大切、そのために何かしたい」と、図書館の仲間や医療関係者や病院のボランティアに打ち明けたところ、多くの賛成の声を聞くことができました。

ついに活動開始、そして翌年から活動が本格的に

 講師として迎えた子ども病院のベテラン医学司書から、絵本を通しての親子体験型が学びやすいとアドバイスを受けました。これを参考に、2014年に「障がいと病気」に関する絵本を用いた親子向けの講座を、市民自主企画事業に応募し、教育委員会の講座として開きました。当時は、子どもに対して病気のレクチャーをするというのは新しい試みだったので、教育委員会への説明も大変でしたが、最初は保護者説明会を開き、ワークショップのときは、表現材料にわかりやすいレゴなども使い、無事に乗りきり開くことができました。何よりも読み聞かせの本を親に投票で2冊選んでもらったのが功を奏したと思います。その2冊とは、ダウン症の女の子の話『スマッジがいるから』と、命の本『黒グルミのからのなかに』でした。

 参加者は障がいの有無に関係なく、小学生とその親たち、学童の指導員などでした。講座の中で、子ども病院の医学司書の方から現場の話を伺いましたが皆、感動していました。
 
 スタッフは前回に続き、公共図書館司書、医療従事者、病院ボランティア、読み聞かせサークルメンバー、ママ友たちと増え、約10人以上となりました。もはや、教育委員会の助けを借りずに自分たちで活動を進めていこうと決めました。まずは、皆で話し合い、キッザニアのように楽しみながら体験でき、教科書は絵本、わかりやすい連続講座を開くというスタイルにしました。そして、講座の修了後には子ども用に、まるで運転免許証のような写真付きの修了書カードや可愛いバッグなど、何か手渡しのプレゼントを考えました。子どもは、最後にお楽しみがあれば、次の講座も来てくれるはずという発想です。

 そして科学教育の普及や啓発助成事業に重点を置く、ある公益財団法人の助成を受けることができました。

その講座の内容とは?

 子どもが魅力を感じるキャッチコピーを考え、講座のタイトルを「こすぎこども大学」シリーズとしました。真面目なタイトルにすると、すでにチラシの字を見た時点で、親子は集まらないと思いましたから。

 2015年度の初講座は「こすぎこども大学医学部」と名付け、心臓の役割や内臓、骨格の働き、心の感情表現について学びました。2016年には「ふくし学部」として高齢者の老いや認知症を、2017年には「赤ちゃんが学部」でお母さんの出産や産後のこと、バリアフリーのこと、2018年には「薬学部」として薬膳料理実習や手作りハンドクリームで体験を多いに盛り込みました。

◆講座の詳細◆

 まず、最初の「医学部」では、現役ライフセーバーの方を講師に迎え、救命救急の関してのビデオを見たり、AEDの使い方はもちろん、医師が使うハンディエコーで、自分たちの内臓を見たりしました。人間の骨格模型には、目がテンになっていましたっけ(笑)。そして、最後に、喜怒哀楽という感情表現の仕方で自分が今、どんな気持ちかを彼らに問いかけてみました。これは自分の心の状態を冷静に感じることで、怒りやいらだちをコントロールするアンガーマネージメントに繋がるからです。

 「ふくし学部」では、老いを食事から考えてみようという企画でした。食べやすい介護食にひと工夫をと「ココアプリンの豆腐白玉のせ」を皆で作りました。試食のときはその美味しさに皆が舌鼓を打ち、やはり調理実習は子どもにウケましたねえ。また、高齢者体験グッズを装着しての歩行には、視野が狭くなることに「わあ、危ない!」と驚いていたようです。

「赤ちゃん学部」では、出産というデリケートな分野でしたが、赤ちゃんが生まれる様子がわかりやすく図解してあるフランスの絵本『赤ちゃんが生まれる:幼年版』がとても効果的でした。新生児の人形を抱っこしながら、おむつ替えなどの世話をすることによって、自分たちも小さいときはこうだったんだと思いを馳せているようでしたね。

 「薬学部」では、薬膳クッキングと称して、旬の野菜や手近な果物を使って料理で身体の調子を整えようと、また調理実習を企画しました。カボチャやバナナのパウンドケーキを子どもが焼いて、親も試食をしたらこれまた大評判でしたね。また、地元の調剤薬局の援助もあり、子ども用白衣を着て、錠剤の分包や塗り薬調合の仕方を学べば、すっかりチビッ子薬剤師の出来上がりでした。ハンドクリーム実験では、実際にクリームを作成した後、家族にもやってあげましょうと、手のマッサージの仕方まで習いました。肌を大切にするということは、自分を大切にする心が芽生えるということで、私たち大人も納得でしたねえ。

参加者の反応と手ごたえは?

まず一番印象的だった講座は、やはり最初の心臓を扱った「医学部」講座です。私たちも初めての自主講座ということで手探り状態、開催前に8回もミーティングを重ねました。ライフセーバーの方が持参してくれた実際の救援映像の迫力が凄くて、親子が画面に食い入るように見ていた姿が忘れられません。そのときに「よし、これから、この講座は続けられる」と確信が持てたのです。
子どもたちの医師や看護師の方への質問も素晴らしかったですよ。「痛くない注射はないの?」「どのくらい勉強したらおいしゃさんになれる?」などなど、本当に純粋な疑問です。一番驚いたのは「命って、なに?」と聞いてきた子がいたことです。さすがに、すぐには看護師の方も答えず、最終講座までに熟考して、プリントしたものを用意してくださったので、それを子どもたちに配りました。
 「赤ちゃん学部」では、子どもたちに「赤ちゃんはどんな感じでお母さんのお腹にいるのかな」と絵を描かせました。すると、一人の子が、お腹の中で仁王立ちに立ってる絵を描いたので、そのユニークさに思わず笑いそうになったのですが、講師の助産師の方は「そうね、反対向きで生まれてくる赤ちゃんもいるし、みんなの絵はみんな素晴らしいね」と全員正解にしてくれました。そして、「みんな、お母さんのお腹から生まれてきたのは奇跡なんだよ!生まれてきてありがとうね」とまとめてくれました。

 また、「赤ちゃんやお年寄りなど弱い立場の人がいるまちで何をすればよいかな」という問に、一生懸命にずっと考えていた小学校1年の女の子は、講座の終わりにやっと「手を繋いであげる」と答えを出しました。これにも「その考えが、川崎から日本へ、そして世界に伝わって皆が手を繋いだら、みんなが平和で暮らしやすいね」と褒めてくれました。いやはや、私たちスタッフも拍手を送りたかったですね。

活動を振り返って

 最初の講座から4年が経ちました。講座に来てくれるリピーターの子たちの成長ぶりが何よりも楽しみですね。参加者の3分の1以上はリピーターです。最初から参加してくれたきょうだいのお兄ちゃんのほうは、目が離せないほどチョロチョロしていたのに、今や落ち着いて、まるでスタッフの一員のようです(笑)。

 地元の薬局の薬剤師さんをゲストに迎えたとき、スピーチで「栄養相談もしているし、町の人たちと仲良しの薬屋さんになりたいから、気軽に遊びにきてくださいね」と締めくくると、さっそく遊びに行った子どもがいたようです。可愛いですね。

 参加する親を見ていても子どもへの愛情を感じ、微笑ましいものがありました。我が子のチビッ子白衣姿に感激、嬉しそうにスマホで写メしたり、車椅子体験で我が子に押してもらうと「将来、この子に押してもらうのかしらん」と妙にしみじみとなったり(笑)。

 4年間の活動の中で一番思い出になっているのは、祖父母と暮らしてない子どもが多い中で、「習った白玉プリンを、おじいちゃんとおばあちゃんに作りに行きました。ありがとうございました」というお礼のメールを保護者からもらったときでした。嬉しかったですね。この活動をしていて、本当に良かったと思いました。
 人材にも恵まれました。和気藹々のスタッフたちだからこそ、ここまでやってこれたと思います。自分が困ったときに助けてくれる仲間には感謝しかありません。そして、私たちスタッフが2つのこだわりを貫いてきたきことも続けられた秘訣かもしれません。1つは、講師は身近な人から、なるべく地元からというこだわりです。子どもたちに「こんな近くに、こんなかっこいい大人がいるんだよ」という、親近感やリアル感をアピールしたかったのです。

 そして、もう1つは、講座の学びがしっかり子どもに伝わっているかどうかを意識してきました。連続講座の3回をワンクールにしたのもそのためで、講座の途中でアンケートを取ったり、3回目の最終講座にそれを反映させたりもしてきました。子だけの参加のときには、撮った写真のアルバムを親に見せて意見も聞きました。親からはフィールドワークの要望が強く、子どもからは、食べ物を扱う実習がしたいようですね。やはり、皆で作って食べることの楽しさを知ったからですね(笑)。

活動を通して自分が変わったことは

 一般市民として「これから地元をどうしていきたいか」という意識が芽生えました。行政の手を借りずに市民の手でより良く変えていけるのでは、そして、このまちならできるかもという手ごたえを、この活動を通して感じました。

 かわさき市民活動センターや市民館の存在は大きいです。なぜなら、スタッフの打ち合わせをセンターで開き、講座や調理自習は同じ建物の市民館の調理室でできるのです。使いやすさは一石二鳥です。また、講座開催で困ったことがあると市民活動センターの職員さんがやさしくアドバイスしてくださり、本当に心強い支えとなっています。

どんな子ども時代を

 母の実家がここ武蔵小杉で、母も司書でした。私は、小さなときから本が好きで色々なことを妄想することが大好きでした。そこは、このアンダー50の前回の真鍋さんとよく似ていますね。子どもが好きで、絵本好きでしたから、本に関わる仕事をしたいなあとずっと思っていました。母の影響もあったかもしれませんが、私が図書館司書になったのはごく当然かもしれませんね。好きな仕事なのでストレスを感じたことはありません。

 子どもの頃の愛読書は宮沢賢治です。昔から「人は生きて、死んでいく」という命のことを考えるような子でした。今の仕事は医師や看護師に医療情報の供給ですが、その先には究極的に「患者さん」がいることを常に思っています。「一期一会」が好きな言葉なのは、患者さんとのご縁を大事に、その時々を大切にしたいと思っているからです。

今後の目標は?

私の最終目標は、がん教育の普及です。そしてこれからは、医学情報は医療関係者や患者さんだけでなく、一般市民にもレクチャーしていきたいです。小学校の現場教育にもサポートできたらと思っています。それには安心で優しいまち、すごしやすいまちづくりがかかせません。

最後にメッセージを

 この地元・コスギで何かしたい!と思ったら、周りには温かい人たちがいて、助けてくれます。どうぞまずは、一歩を踏み出してみてください。一歩を踏み出すと、みんなそれを面白がってくれて、応援してくれます。

 毎年恒例の武蔵小杉の商店街のもちつき大会には、健康相談のブースの隣りで赤ちゃんの絵本の読み聞かせを予定していますし、また来年度も「こすぎこども大学」を企画中です。「こすぎこども大学」の活動にご興味のあるかた、どうぞ楽しみにしていてください。そして遊びにきてください。お待ちしています。


2019年1月22日取材 レポーター 町田香子

お問い合わせ

かわさき医療情報ネットワーク・フェイスブックページ
https://ux.nu/gK6oH

次回のエースは石井 麗子さんです。

石井 麗子さんへ一言

カフェのような柔らかな雰囲気の場所で、病気の悩みや健康に関する心配ごとを相談したり、話したりできる場所「暮らしの保健室」。その常駐ナースが麗子さんです。会う度に気さくに声を掛けていただき、ホッとさせられています。医療相談に限らず、麗子さんが描くイラストもほのぼの系で癒されます。ぜひコミュニティナースの活動についてお話しいただきたいです。

バトンを受け継いで 荒木 亜紀子 さんへ一言

石井麗子さん正面写真

いつもにこやかで、温かい荒木さん。プラスケアの「暮らしの保健室」設立当初から見守ってくださっています。もう2年のお付き合いとなりました。いつも頼りにしています。これからもよろしくお願いいたします。

(C) 2022 公益財団法人かわさき市民活動センター 
市民活動推進事業