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U50   第9回 中村 崇さん

アンダー50として、2018年から2024年3月まで、
50才未満の若手市民活動家へインタビューを重ねてきました。
「活動を始めたきっかけや思い」など、
62名それぞれの軌跡が
多くの方々へのエールになるよう願っています。

中村 崇 さんプロフィール

医療法人社団 和光会 総合川崎臨港病院 院長室 事業企画担当 
東京都渋谷区 在住  

健康で安心な生活を目指して、市民が気軽に行けて親しみやすい病院作りを独自の活動で進めていますね。

 医療技術の進歩により、多くの病気は完治する様になった一方で、高齢化による身体機能の低下と病気の併発や、生活習慣病をはじめとする慢性疾患への対応が課題になっています。

 たとえば「生活習慣病」は、その名の通り生活習慣が原因で発症する疾患の総称です。入院して症状が改善したとしてもそれは一時的なもので、これまで通りの生活を続けていれば再発してしまう可能性があります。だからこそ、高度医療や先端医療を行っている大学病院等のように「何かあったら行く場所」ではなく、地域密着型の病院として「日常的に身体のメンテナンスができる場所」になる必要があります。そうなることで、「日常生活の中に医療が溶け込む」ようになり、予防や早期発見・早期治療へと繋がると考えています。

 それには、まず、病院のイメージアップです。Webサイトを充実させると同時に親しみやすい印象のデザインにリニューアル、病院のFacebookアカウントを作成し、インフルエンザ予防接種開始の最新情報や、育児相談のお知らせなどのニュース配信、病院と地元商店街や地域住民の方を巻き込んだイベント情報も随時更新するようにしています。

 当院の一ヶ月の外来来院数は約8000人です。普段はあまり、お世話になりたくない病院ではありますが、単純計算で1日に300人以上の地域の方が来院していると考えると、病院がプラットフォームとして地域コミュニティの拠点になり得ると感じました。そこで、通院目的ではなく、地域の方が立ち寄れる場所作りを目指して、駐車場の一部を試験的に開放し、昼休みの時間帯には日替わり弁当やパンの販売を行ってもらっています。

 最初の出店は、社会福祉法人さんのパン販売でしたが、特に食パンやロールパンが絶品で、施設長の「障害者の方が作ったパン」ではなく「美味しいパンを作っていたのが、実は障害者の方だった」というストーリー作りに共感し、出店をお願いしました。その後も、知人の紹介等で枠が埋まっていき、今では平日月〜金曜の毎日出店しているので、次の段階として「臨港病院に行けば何か面白いことをやっている」という状態を目指して、地域住民の方にも出店者の方にとってもより付加価値のある場所にしていきたいですね

 また2016年に現在受付や外来診察室のある新病棟増設しましたが、自販機設置の際には販売会社さんと一緒になってちょっとした仕組みを取り入れました。当院院長の渡邊が小児病棟の環境改善を目指してキッズアートプロジェクトというNPO団体を立ち上げ、理事長を務めています。そこで自販機の売り上げの一部がそのNPO団体に寄付できるように、販売会社さんと相談、入院中の子ども達が描いた作品をラッピングした「応援自動販売機」というものを置きました。販売会社さんの営業活動の一環として、NPOの活動に共感していただいた施設等にも設置していただいています。

Facebookでイベント情報を発信しているとのことですが、具体的にどんなイベントを

 本格的に病院のブランディングに取り組んで今年で3年目になります。最初の1年は、病院案内等の各種パンフレットや名刺のリニューアルを行うかたわら、メディアや地域の方とのコネクション作りに奔走しました。2年目入ると、すぐ隣の桜本にある川崎協同病院のソーシャルワーカーさん等と一緒に「楽しく健康について学べる」をコンセプトに、子育てママ向けの体験型セミナーや、認知症をテーマにした映画鑑賞会と認知症サポーター養成講座をセットにしたイベント等の健康啓発企画を5回開催しました。今年も継続して活動しており、11月28日、29日には予約制で出産経験者対象の骨盤底筋群エクササイズ(https://www.facebook.com/events/254659668579978/)を開催します。

 引き続き外部との連携を模索していましたが、川崎駅前や他の区で地域活動を行う方とは知り合うことができたものの、川崎区内で活動している方には出会えないという状況が続いていました。

 そんな中、幸区盛り上げ隊!というNPO法人を運営している方から「NPOメンバーの中に川崎区から参加しているママさんがいる」という情報を得ました。ハンドメイド作家であるという彼女を早速紹介してもらい、昨年12月と今年の3月に当院駐車場の一角でハンドメイドマルシェを開催。2回とも大変好評で、9月からは「カワサキ手しごとマルシェ」として2ヶ月に1回のペースで開催することになりました。次回開催は11月20日ですので良かったらお越しください(https://www.facebook.com/events/539531396518031/)。マルシェの運営をお任せしているママ作家さんは、今では「川崎区盛り上げ隊!」という団体を立ち上げて、本格的に川崎区内の地域活動を行っているようです。

 そして直近では今月11月2日から3日間、昨年に続いてかわさき市民祭りに病院として出店しました。

その参加した市民祭りの様子は

 昨年も大好評だった当院管理室栄養士監修の「減塩豚汁」や、お菓子で飾った「デコレーション綿あめ」の販売をしました。さらに今年は高齢者体験キットを装着しての輪投げゲームを体験してもらいました。当初は子どもの参加を想定していましたが、大人の方、それも特に病院としてアプローチが難しい30歳、40歳代の働き盛りの人々も多く、思った以上に反応があり「重りや眼鏡の装着で白内障や筋肉低下の状態を経験してみて、やはり高齢者には優しくしないといけないと思った」との感想には健康啓発としての手応えを感じました。また「病院も出店をするんですね」と声をかけられたときは、なんとなく病院というものが地域に溶け込んだ気がして嬉しかったですね。収穫の多い3日間で、来年もぜひ参加したいと思っています。

印象深かったイベントは

 やはり今年の7月7日に、お隣の商店街である中島中盛会さんと一緒に企画した「たなばた夕市」です。元々この中島中盛商店街では七夕祭りが約10年前まで毎年開催されており、2日間で4万人を超える人出があるほどで、湘南ひらつか七夕まつりと同じくらい盛んだったそうです。しかし商店主たちの高齢化に伴い、だんだん人の波をさばききれず、また運営も難しくなり、一旦打ち切りにしたと聞いていました。たまたま今年、当院にインターンシップで来ている地元の大学生が10年前の祭りを覚えていて、一緒にいろいろと打ち合わせをして、また周りの人々の協力もあってプチ復活の運びとなりました。ハンドメイド作家さんの出展店はもちろん、インターン生の幼馴染が所属する中島出身のダンスチームによるパフォーマンスや、屋台、病院で出張販売をしているケータリングカー、ダンスチームのメンバー常連のカフェの出店など、子どもから大人まで一緒に楽しめる祭りになりました。商店街の方によると当日は5000人も集まったそうです。

 この「たなばた夕市」が来年以降も継続して開催されて、商店街復活の象徴となればとは思いますが、やはり日常的な集客ができないと意味がないので、小規模でもいいから頻繁にイベントを開催できないかと考えています。

 その第1弾として10月20日に、空き店舗である商店街の事務所を借りて、「こすぎトラベラーズサロン」を運営する真鍋靖子さんを講師に招いて、5組限定で親子向けの「旅育ワークショップ」を開きました。真鍋さんによると、ワークショップに参加した方の多くが、その半年以内にその旅行プランを実現させているそうで、あまり川崎から出る機会のない地元の方にとって、視野を広げる良いきっかけになるのではと考えています。また、高齢者の引きこもり対策としても応用できそうなので、そちらも実現に向けて企画中です。

病院の裏方として

 今の職場である総合川崎臨港病院のマーケティングに関わることになったきっかけは、5年前、当時マーケティング会社に勤務していた私が、現院長である渡邊の院長就任時に自身の考えを内外に発信したいということで、Webサイトのリニューアル時の営業窓口だったことです。
 2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災を経て、資本主義社会が本格的な転換点を迎えたなという実感があり、また元々営業志望ではなかった私は、自身の営業目標達成のために無理な提案をすることもある現状に疑問を感じていました。 

 そんな中、Webサイト制作業務を通じて、これからの地域医療を真剣に考えている院長の渡邊に出会いました。渡邊院長とのやり取りの中で、医療現場での課題はコミュニケーション課題であることが分かり、「病院のマーケティング」という未知の領域での可能性を感じました。それだけでなく、病院のマーケティング活動の一環として街づくりに関わることで、これからの社会の在り方を模索できるのではないかと考えるようになりました。そしてWHO憲章の中に健康とは「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」と定義されているということを知り、「肉体的な健康は医療機関が、精神的・社会的な健康を、街づくりを通じて実現する」という考えに行き着きました。

どんな学生時代を

 生まれも育ちも熊本で、典型的な「肥後もっこす」です(笑)。

 中学は当時流行ったアニメ「スラムダンク」の影響でバスケット部、高校は弓道部、大学はオムライス専門店でキッチンスタッフのバイトをしつつ、バスケットサークルに所属していました。大学時代の専攻は、心理学、倫理学、芸術学、哲学等の人文系学問を学ぶ文学部の人間科学科で、最終的に芸術学で卒論を書きました。当時は何となく学部を選びましたが、今考えると、親から「小さい頃は、おもちゃを分解して元に戻せずよく泣いていた」と聞かされていたので、物事の仕組みを知るのが好きだったからだと思います。

 そして、「マーケティング=人を動かすための仕組みづくり」だと思います。それはつまり幼少期から関心領域ということなので、個人的には今の仕事は天職なんじゃないかと思っています。

現状課題とこれからの展望、メッセージを

 これまでの活動を通じて「Facebookでの日常に役立つ健康情報の発信」と「病院へ来ない層へのアプローチ」の2つはまだまだ改善の余地があります。前者はコンテンツ作成に当たって院内の協力体制がまだまだ整っていないこと、後者は「健康は当たり前」と考えがちで一番忙しい働き盛りの30〜40代の方が、時間がない中でも関心を持ってもらえるコミュニケーションが出来ていないことが原因です。後者に関しては、かわさき市民祭りで輪なげゲームがヒントになりそうです。

 また今後展開していく中で、私個人での活動にはどうしても限界があるので、当院の診療圏である大島、中島、藤崎エリアという限られた地域を活性化したいという、より多くの賛同者を巻き込む必要があります。そのためにも、病院・賛同者・地域の「三方良し」となる仕組みづくりが重要だと考えています。病院というメディアをうまく活用しながら、これからの社会の変化を見据え、サスティナブルな地域づくりを模索したいと思います。

 当院院長渡邊の知人で行政の方が仰っていた「Think Global, Act Local.」が印象的な言葉の一つです。地域課題を考えるときに、地域住民一人ひとりの思いに寄り添うことも重要ですが、それだとどうしても個別の対応になりがちです。その人個人を見ながらも、一歩引いた視点で、その人に関わる人々、地域の特徴、社会背景と俯瞰して全体の関係性を把握することで、根本的な原因が見えてきて、一串で複数の問題を解決できるような、思わぬ解決策が浮かんできたります。

 もちろん、それが机上の空論で終わっては意味がないので、自分のできる範囲でまず実行に移すさないといけません。そのためにも「何かしたい!」と思ったら、とりあえず「人と会う」ことが重要だと思っています。人と会うことで、直接の解決が見出せなくても、その人の知人から知人へと繋がっていき、何かが見えるかもしれません。
 
 今月11月23日の勤労感謝の日には病院の外来エントランスを開放して、地域の方による子どもが成長して使わなくなったお下がり品のフリーマーケットを開きます。ケータリングカーによる温かい料理も用意します。「お下がり品のシェア」というアイデアは割と初期からあったのですが、落とし所がなかなか見つからず、ようやく実現できた個人的に思い入れのある企画です。どうぞ気軽に遊びにきてください。

問い合わせ先
 詳しくはFacebookのイベントページ(https://www.facebook.com/events/1898983566805513/)をご覧ください。


お問い合わせ

総合川崎臨港病院 Facebookページ https://www.facebook.com/KawasakiRinko/

次回のエースは真鍋靖子さんです。

真鍋靖子さんへ一言

武蔵小杉のこすぎトラベラーズサロンを拠点に「親子旅育」を推進されている真鍋靖子さんです。「心が動いた時点で旅」をキャッチコピーに、それぞれの旅の楽しみ方を提案されています。ご自身の趣味が旅行で、育児中に遠出できないという経験から生み出された「妄想旅行」のワークショップを当院の街づくりの一環で開催させていただきました。引き続きの当院での合同企画や今後の活動が楽しみです。

平成30年11月5日取材 レポーター 町田香子

バトンを受け継いで 中村 崇 さんへ一言

こすぎトラベラーズサロンを武蔵小杉から飛び出させるきっかけをくださった中村さん。こすぎコアパークでの偶然の出会い(ビール付き)がご縁のはじまりでした。彼は圧倒的な熱量を持ちながら、それを感じさせない俯瞰と引きの美学をお持ちです。病院と旅育がまじわることで生まれる可能性に気が付かせてくれた稀有なかた。ありがとうございます。

(C) 2022 公益財団法人かわさき市民活動センター 
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